2008年02月15日

テスター合格手記(第5回ワークショップ参加者)

◆2004年12月、ソウルで行われた第5回ワークショップで、私は知恵熱を出しそうになりました。一日6、7時間の講義と演習、帰宅後は演習中に録音した自分のテープを聞き直し、翌日はまた朝から講義という大変濃密な四日間でした。 しかし今思えば、ワークショップはOPIの味見であり、その後のプラクティスラウンド、本番ラウンドこそがOPIテスターになるための本当の修行であったと思います。

幸い韓国は日本語学習者が多く、相互扶助の精神でワークショップの同期生と協力し合ったため、被験者に困るということはありませんでした。しかし、一定の構成と作法に則ってインタビューを行い、自信を持って判定を出せるようになるまでには、膨大な時間がかかりました。厄介なのは、特にプラクティスラウンドで、テープを聞けば聞くほど分からなくなるという現象が起きることでした。おまけに自信を持ってレベル判定を出せると思ったものでも、よくよく聞いてみると的外れな質問をしていたり、インタビューの構成で何かが抜けていたりして、結局先生には提出できない、ということもよくありました。

しかし、百本近いテープの山を築き、テープを聞いてはマニュアルの基準を読むことを繰り返す内に、徐々にOPIの基準が自分の体に入り込み、染み込んでくるのを感じられるようになりました。これが、ちょうど本番ラウンドの追い込みの頃だったと思います。なにか、頭にかかっていたもやが晴れてゆくような感じでした。そして、その感覚を持ってトレーナーに提出する予定だったテープを聞き直してみると、2つのテープが、あるレベルに近いけれども、該当レベルに達していると判定するには、証拠が不十分であるということがはっきりと分かってしまいました。テープ提出の数日前です。それから大急ぎで、手当たり次第に協力者を探し、運良くあるレベルにぴったり当てはまる人を見つけることができて、なんとか事なきを得ました。何十人もインタビューをしたにも関わらず、全てのレベルを揃えるのは至難の業だということを痛感しました。

トレーナーの先生、韓国OPI研究会の皆様、同期の皆さんのおかげで無事にテスターの資格を得ることができましたが、整然と構成されたインタビューを行い、他のテスターと一致する結果を常に出すには、まだまだ研鑽が必要です。現在は教育実践の中で学生にOPIを行なって事前にレベルを把握したり、授業に取り入れる教室活動を検討する際にOPIの考え方を役に立てています。今後は、テスターとして活動するだけでなく、OPIの基準を取り入れたコースデザインの実践研究に取り組んでいきたいと考えております。

これからテスターを目指す皆さん、地道な積み重ねはやがて報われます。ぜひあきらめずに挑戦なさってください。(A. I )



◆数年前、所属する大学の推薦入試試験、日本語を特技とする学生の日本語の会話能力を10分で測るという仕事をまかされ、青くなったことがあります。10分で会話能力を測る(しかもその学生にとっては人生の一大事!)だけの基準が自分の中にないことに気づき、その基準をつかみたいと思ったのが、OPIに興味を持ったきっかけでした。また、日頃学生さんと話していて、「何となく日本語がうまい」「何か足りない」と感じる、その「何か」を知りたいとも思いました。被験者の能力を引き出すだけの状況を試験する側で作る、その質問の組み立て方を勉強する、というのはよく考えれば当たり前のことなのかもしれませんが、私にとって新鮮な作業でした。

 ワークショップからインタビューテープ提出まで数多くの方に時間を割いていただき、またいろいろな先生に助けていただき、多くの方にインタビューをさせていただきました。インタビューをした後、「30分間日本語で話しきれた!」「思ったより話せた!」と充実した表情で帰っていく学生さんを見るときが、私が充実感を覚えた瞬間でした。また、ある方は、「いろいろな話をしているうちに、自分の過去や今を見つめることができた」と涙を浮かべていらっしゃいました。30分間1対1で向き合うということは、単に日本語を試験する以上の意味を持つ場合があることに驚き、またその重みを知った瞬間でもありました。

 テスターは試験をする立場というより、話を引き出す、話の場を構築する立場なのではないかと思います。まだまだ未熟ですが、たくさんのインタビューを通して、少しその方法がぼんやりと見えてきました。今後も勉強を続けていくと共に、今後は日本語教育の現場にどう活かすかという問題に近づけたらと思っています。(N. N )



◆OPIのテスター資格を得るということは、「100人を超す人々との出会いを体験する」ということです。「一年生になったら友達100人できるかな♪」という童謡がありますが、「テスターになったら、知り合い100人増えるかな♪」とも言えます。テスターになるためには、多くの人々との交流の中に身を置かねばなりません。自分一人の力では決してテスターになることはできないのです。

まず、私たち5期生が参加したワークショップ、この企画運営を韓国OPI研究会の先生方や先輩方が担ってくださいました。ワークショップの企画と通知がなかったなら、私たちのような韓国在住者は日本で研修を受けなければなりませんでしたし、そもそも私などはOPIの存在さえ、知り得なかったかもしれません。ワークショップ期間中も先生方先輩方のご協力がなければ、かなりハードな研修を心楽しく勇気を持って送り続けることは出来なかったと思います。また、研修終了後もOPI研究会の存在が、我々資格取得者の大きな支えになりました。一連のインタビュー作業は五里霧中といった感があり、この研究会が我々にとっての灯台の役割を果たしてくれました。

そして、今回我々を直接指導してくださったトレーナーの斉藤眞理子先生の存在。先生の経験に基づいたご教授が我々5期生のその後のテスター取得のための全ての行為の基準になりました。延々と続くインタビューと判定の実践では、その都度新たな疑問が生じてきます。迷ったときには、各自がワークショップでの斉藤先生の講義ノートを紐解き、各々が記録したメモをつき合わせて基準を正し、更なる作業を進めていったのです。また、練習ラウンドの判定と指導・激励のお言葉に励まされ、我々は本番テープを揃えることが出来たとも思います。

更には、ワークショップ同期メンバーの先生方との交流。「同じ釜の飯を食った」間柄とも言えましょうか、同じ目標に向かって、同じ苦労を体験している訳ですから、同期メンバーの交流と結束は自ずと深くなります。この交流なくして、一連のインタビュー作業は決してスムースに遂行できません。テスター資格取得のためには数十人~百人近くのインタビューをこなさなければなりませんから、その被験者の確保が大きな問題になってきます。各先生方がそれぞれの勤務先でインタビュー会を企画して、それに順繰りに参加することで私たちは多くの被験者を得ることができました。また、そのインタビューでの経験やノウハウを共有することにより、一人で作業を進めた場合の数倍にも値する知識を得ることもできたのです。

最後に、被験者、つまりはインタビューを受けてくれた非常に多くの日本語学習者(多くは韓国の方)の協力。これがあってこそのOPI研修でした。研修会で初めて自分でインタビューを行って以来、私たちは絶えず学習者の積極性に支えられて来ました。どの学習者も真剣に一生懸命にインタビューを受けてくれました。私たちは例えそれが初級話者のたどたどしいインタビューであっても、その学習者の真剣な眼差しに心打たれ、敬意を払ってインタビューを行いました。我々は彼ら彼女らに日本語を教えるという職務を日々行っているわけですが、OPIテスター・日本語教師としての経験と技量は彼ら彼女らによって養ってもらったと言っても過言ではありません。そして、更に言ってしまえば、インタビューによる学習者との多くの出合いは、この研修を通しての「思い出の花園」でもありました。「合格体験記」などと言うとどうしても「苦労話」を書いてしまいがちですが、私にとってのOPI研修は、開始からテスター承認通知までの約10ヶ月間、楽しいことの連続であったように思えます。インタビューを名目に色々な所(多くは韓国各地の学校)に出向き、初対面の学習者と挨拶を交わし、そして、本当に多種多様な話を聞いて帰って来る訳です。私はインタビューに出かける前日は遠足を控えた子供のように、いつも期待に胸を膨らませていました。もちろん、インタビュー後には録音した会話を聞き返して判定を下し、各人に解説を付けて結果を送付するという、骨の折れる作業が待ち受けている訳ですが、それも相手から感謝の言葉を返されれば、多くは報われる作業となります。

 韓国OPI第五期のワークショップに参加して、テスター資格の承認を得るまでの約10ヶ月間、私は多くの人々と出合い挨拶を交わして、多くの思い出を作りました。出合った多くの人々、どの人との交流を取っても、私のテスター資格取得の支えにならなかったものはありませんでした。この一人一人の出合いの思い出こそが、私がOPIワークショップに参加して得た最高の財産であったのかもしれません。多くの人々に支えられてこそ、OPIのテスターは育てられ誕生するのです。OPIのテスターとして歩んでいくと言うことは、更なる出合いを営々と重ねていくということであり、これからも「わくわく」体験がずっと続いていくことを意味しています。(H. N )



◆トレーナーの先生からの最終結果を受け取った瞬間の気持ちというのは、体験した者でなければわからない、言葉では到底表現できない感動がありました。それほど、この10ヶ月の戦いは内外ともに多くの紆余曲折がありました。

 まず、ワークショップが終わり、家にたどりついたその瞬間から心の葛藤が始まりました。テスターになるためには、練習ラウンドと認定ラウンドを通過しなければならず、それは、言うに言えない苦労の道のりであることが容易に予想できたからです。1ヶ月悩みました。やるべきか、やめるべきか。中途半端にやるくらいならやめたほうがいいと本気で思いました。

 そして一ヶ月後、心を決め、練習ラウンドに向け出発したのでした。

 練習ラウンドにしろ、認定ラウンドにしろ、問題は被験者の数でした。当たって砕けろじゃありませんが、まず自分がインタビューをしてみない限りは自分のスキルアップは望めないからです。とにかくどんどんインタビューをして、自分のテープを聞き、なにがどう良くなかったのかを知るという作業から始まりました。最初のころは、ほとんどがロールカードの選択ミスばかりでした。まったくトンチンカンなロールカードを差し出してはロールプレーをしていました。そのうち少しずつ感覚がついてきたのですが、今度は数をこなすほど、以前はわかっていたはずのところがわからなくなってくるという現象も起きました。

そして、練習ラウンド用のテープがそろそろそろい出したと思えるころ、ようやくOPIがなんなのかがわかってきたように思います。

テスターというのは、自分自身が一種の「判定マシーン」になるということだと思います。インタビューをしている最中は自分ではありません。どんな質問をし、どんな発話を引き出すか。30分間、完全にマシーンになった気分です。インタビューが始まるとスイッチを入れ、終わったらスイッチを切る、まさにそんな感覚でした。

練習ラウンドで50本、認定ラウンドで50本、合計約100本ほどのテープを集めました。認定ラウンドでは後がないため、テープ選びが非常に慎重になりました。結局最後までテープ集めが大変だったのが上の上と超級でした。超級などは夏休みに日本へ帰省したときに地元の大学の留学生にインタビューをお願いしたりもしました。レベルが上がれば上がるほど、被験者の数も少なくなりますが、それに加えて、自分のインタビュースキルが問われるため、自分の失敗が致命的になってしまう場合が多いのです。

 時にはあきらめたくなる時もありましたが、そんなとき、ある先輩の方から言われた言葉が心の支えになりました。「あきらめなければ絶対だいじょうぶ」と。また、同じ料理を作っても、人それぞれ少しずつ味が違うように、各自の持ち味を生かしたテスターになること。それも重要なんだと感じました。

他の方もおっしゃっていますが、自分ひとりでは越えられなかった道のりだったと思います。被験者を紹介し合い、相談し合い、励まし合う、そんな仲間がいたことで力を得ることができたと思います。逆に言えば、それほど一人では寂しく孤独な戦いになるということです。

これからテスターを目指すみなさん、いっしょにがんばりましょう。不安なこととかわからないことがあったら遠慮せずに言って下さい。出来る限り、お手伝いしたいと思います。(Y.A)



◆昨年のクリスマスでした。ワークショップの初日、緊張した雰囲気の中で教室に座っていたことを今でも覚えています。(今も席順を覚えているのは私だけではないと思います(笑)。それほど濃密な時間でした!)あれからテスターの合格をいただくまでちょうど一年間。たっぷり一年かかったライセンス取得の期間は目標をかかげて過ごした充実した一年になりました。

有意義だったワークショップが終っても、実践を伴わない理論は本当の意味で理解できるものにはならず、練習ラウンドや最終ラウンドでのたくさんのインタビューや判定を経験してこそ、初めて身に付く「技術」であると思います。ただし、これが単純な「技術」ではなく、大袈裟に言えば、インタビュアーの「知識や経験の度合い」や「人間性」までもとわれるということを、ほどなく理解することになるでしょう。インタビューは30分間の真剣勝負です。30分の中で、被験者に最高のパフォーマンスをしてもらうことができるか、いや、させられるか、いつも自分自身へフィードバックする課題でした。冷静でゆるぎない「技術」のみならず、初めて出会う被験者との新鮮な出会いの喜びも、両輪の如く大切なものだと思っています。そういう意味では、テスター資格をいただいた後も、自分自身が色あせることのないよう常に進行形で成長しつづけなければならないと感じています。

ワークショップで出会った同期生との交流や情報交換が、大きな助けや支えになったのは言うまでもありません。お互いの学生を紹介したり、紹介されたりというプロセスがなかったら、決してテスター取得はかなわなかったはずです。日本語教育が大学生対象である私にとって、日本語を勉強している主婦やビジネスマンへのインタビューはOPIテスター取得の目的だけにとどまらず、新しい体験を与えてくれました。感謝したい気持ちでいっぱいです。

最後になりますが、ワークショップを主催してくださったソウルOPI研究会、ワークショップで厳しくもユーモアをもってご教授くださり、ラウンド審査の際にはいつもあたたかな励ましをくださったトレーナーの斎藤眞理子先生へ深く御礼を申し上げたいと思います。(T.H)


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